キラ☆キラ感想

キラキラしたものについてをメインで、ネタばれしつつ。


きらりは最後の言葉として、

「みんな、ありがとう……」
「……あたし、すごく、幸せだったかも……」

と、感謝の言葉を述べています。
ここの「みんな」に対する感謝というか敬意というか、愛*1って、瀬戸口さんの大切なところだと思います。
タイトルである「キラ☆キラ」、キラキラしたものの源は、千絵姉シナリオで鹿之助の夢に出てくるのですが、音楽だけでなく、絵筆やカメラ、劇場のステージ、サッカーボールなどからも繋がっていると語られます。
こういう全ての人が何か良いものに繋がっているという考え方から、例えば、CARNIVALの学の

「できれば、誰も憎まないで生きてください」

というセリフに繋がるのだと思います。きらりは、

「あたしね、もっと優しくなりたいの。何かを嫌いだとか、いやだな。そしてね、世界中の全部と仲良くなって……」

と言うのですが、キラキラしたものが世界中の全部と繋がっているのだとすれば、誰もがそれと繋がっている事になって、誰かを憎むということはそれを憎む事にも繋がります。
だから、きらりは誰とでも仲良くなろうとするし*2、優しくなりたいと言うのだと思います。


こう書くと作中でのキラキラがあるから価値があるみたく見えるかもしれないですけど、そういうわけではなくて、そもそもキラキラしたものは皆から流れ込んできたものなんですよね。そして、ファンタジーとして存在するとかそういうわけではなくて、あくまで鹿之助によるイメージというか、ビジョンです。あらゆるものに価値を見出すとでも言うか。


そして、死んだきらりの幻影が出てきたところって、鹿之助がそういった感情を受け入れられるようになるまでだと思います。
一番最初のところで鹿之助は、

僕はいつも心を平静にして、静かに生きていたいんだ。だから、何かに動揺させられたり、感銘を受けてしまうのって、好きじゃないのに

と言っています。そして、鹿之助ってこのようなセリフが結構ある。千絵姉のシナリオで子供のとき言っていた世の中に慣れていくこととか、紗理奈シナリオで、鹿之助は人と打ち解けるのを我慢する紗理奈と同じカテゴリだと言われるとか。要するに、これらは自分の感情に影響を受けないようにする事だと思います。

多分、僕は大丈夫になってしまったんだ。
とても残酷なことに。

と言う理由って、今まで避けていたきらりの死という現実を本当の意味で直視して、それでも自分は受け止めることができてしまって、大丈夫であったからだと思います。
逆に言うと、それまでは耐えられなかったんですよね、それを見てしまったら。だからこそ、大丈夫になってしまったと言われるのではないかと。


きらりが「取り戻さないといけない」と言ったのは、そういう、抑圧したり、回避しようとしてきた自分の感情だと思います。「瞬間が全てなんだ」って、そういうのをやめて、感じたものをありのままにってことだと思うんですよね。キラ☆キラでは、皆がむつかしい世界の中で、いろんなことに悩んで、苦しんでいます。そこで、

「私ももっと間違っても大丈夫なんだって、むしろもっと勇気を出して間違っていくべきだって、そう思えるんですよお」

とか

「今のキミに必要なのは、合理的な結論を得るではなくて、全力で泣いたり笑ったりする事なのだよ」

とか、そんな感じのロックな精神で、「命をかけて」瞬間に向かっていってるのかなと。


で、最初のキラキラに戻ってきます。瀬戸口廉也さんとキリスト教の話って、結構語られる事が多いと思います。僕はキリスト教のことをほとんど知らないので、その辺については適切な事を言えないのですが、この「キラキラ」って、信じるものではないかと思います。
キラ☆キラは世の中のむつかしさを描いていると思うのですが、この作品に対して、途中まで僕は、才能とか成功とか、もっとそういった話をやるのかと思ってました。福岡のライブとか特にそうで、ゾーン*3の話とかしていたので、まぶしいのきらりの才能になんとかついていこうとするという話だと思ったんですよね。
でも、そうじゃないのかもしれないと思いました。きらりって、「そういうキラキラした世界に行くのは、いやかな」って言いますよね。そして、鹿之助は、メジャーデビューとか遠くて、バイトで生活をなんとかしなければいけない、外面的なキラキラと反対の状態であっても*4それでもやっていくと言う。
最初のところで、ロックとは何かという話で、現実を変える力がない場合には怒ればよいとか言うじゃないですか。それだけで何かが解決することはないけれどもと同時に言われる。
これって、ひどく内面的な話だと思うんですよね。たとえそれが現実を変えることができなかったとしても、それに抗おうとするという、その姿勢について言っている。
キラ☆キラはとても「むつかしい世界」を描いています。きらりエンド2で、きらりの父親を変えることはできなくて、本人にできないことは他の誰にもできないという、人間関係においてもある種突き放した感じの認識です。*5
でも、そんな中でも自分が素晴らしいと思ったものについて発する、伝えようとするくらいはできるはずで。
そういう意味で

命をかけて演奏します。
このくそったれな世界に、精一杯の愛をこめて。

というラストのセリフがあるのだろうと思います。



とにかく、考えたり、感じたりする事がとても多くて、、なんかやたらと書きましたが、とてもいい作品だったと思います。かなり強く思い入れも持ちましたし、感想書くのにメモを結構とったり、何回か読み返したりもして、僕にとって非常に印象の強い作品になっています。
また、なんか、この作品を出すのに製作的にも結構冒険をしたようで、そういう作品を出してくれたという意味でも
「この作品を作った製作者たちと、ライターの瀬戸口廉也さんに、精一杯の愛を込めて」
というのを感謝の言葉として。*6

*1:とでも言えばいいのか

*2:ヤクザな人とも仲良くなってましたよね

*3:キーワードで言われているもの

*4:アキが抜けるとなればなおさら

*5:紗理奈ルートで彼女の祖父を説得できたのは、あくまで本人がそう思っていたからであって、直接的に彼が考えを変えさせたという訳ではないです

*6:瀬戸口さんファンなので別枠として。コミケセット買います