キラ☆キラ 紗理奈シナリオ

ネタばれです。

「とても静かで、穏やかな気持ちだ。この時間を、無理に言葉で埋める必要はないんだろう。言葉なんか口にしなくても、こうして並んで座っているだけで、何か通じているような気がする」


体験版をやったとき、鹿之助って、自分の感情と距離をとるとか、それをコントロールしようとする人だと思ったのですが、紗理奈もそれに近いところにいると思います。
二人とも自分の意思というか、主張が薄いです。その分で、自分に対する誰かの望みを叶えたいと思っている。自分の望みによって、誰かの望みに応えられないことは良くないことで、それは時として抑えられるべきものだとなったときには、自分の意思よりも、誰かの望みが主体となります。


鹿之助は、テニス部を辞めたときに、

無理をして散々迷惑をかけちゃったから、仕方ないよ。さすがに、もうこれ以上はね

と言っています。きらりシナリオの最後の辺りでもそんな雰囲気があったのですが、彼はだれかのことを最優先にしてしまいそうなところがある。
紗里奈もそういうところがあって、きらりは彼女に対し、「紗理奈ちゃんって、そういうものは我慢するものだって自然と身に付いちゃってるからね、そういうの見ると、すっごく寂しくなっちゃうの」
と言っています。
寂しくなっちゃうっていうのは凄く的確で、こういう状態って他人からの介入を受けにくいです。外に出す前に抑えるから、自己完結的になってしまう。


こういう状態から抜け出すことになったのが、ロックや旅行、恋愛だと思います。自分というのは、自分で思っているものとは違う、あるいはすごいものなんだということを意識することによってそれがなされたのかなと。
紗理奈が旅をして病気をほとんどしなかったことに対して、本当はもう少し出来たことに気がついたとか、鹿之助が

「自分でも意図しない自分の心の動きに、本当だったら不快にならなきゃいけないはずだと思ったが、悪い気持ちではなかった」

と思うとか、そういうエピソードがあります。身体のこととか、感情のこととかって自分の意思で制御できるものではないから、その分素直に自分というものが現れてくる可能性があると思うのですが、これによって分かることは、自分のイメージしていた自分というものが、案外あてにならないものだということです。たとえば、自分は自分の望みを抑えてでも、誰かの望みに答えるべきという考えは絶対なのか、とか。必ずしもそうではないと思うんですよね。


ここで、逆に自分の望みが全てだと行かないところが、このシナリオのバランス感覚の良さだと思います。自分と誰かという間の中で、その折り合いをつけている。
鹿之助と紗里奈の感情って、反抗すると言う意味でのロックというほど強くないから、相手の立場も見えています。鹿之助は紗理奈のために押しかけてくるなんてことをしつつも、祖父の立場にたっても考えていました。この辺り、熱くなりつつもやはり冷静です。


鹿之助が紗理奈に告白されたとき、「僕はこの感情を理解する必要がある」と言っているのですが、大事なことだからより冷静に、落ち着いて自分の感情を考える必要があるということです。
冒頭に挙げた「静かで穏やか」の必要性って、自分の内の言葉と相手に対して耳を澄ますためだと思います。そこまでしてようやく見えてくるとか、それくらい慎重に扱う必要があると思うとか。
こういう自己主張を凄く抑えて、自分の深くまで行って自分の感情を捉えた上で、伝わるものがあるなんて、そんな関係性はいいなあと素直に思います。紗理奈シナリオが終わったときは、イベントなどの点で印象が弱いような気がしたのですが、こうやって心を落ち着けて読むのがいいのかも、なんてことをこのシナリオに対して思ったりしました。