旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 萬屋直人

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)

某所で今年のベストに上げられていたので、即座に買って来て読んだのですが、面白かったです。


読む前にボーイ・ミーツ・ガールのためだけに世界崩壊設定になっているという駄目な方のセカイ系っていう話を聞いていたので、読むの辛いかなとか思ってたんですが、全然そんなことはなく。
この作品がこういう世界設定を持っている理由の一つって、限定された範囲のことを高い密度で描くためではないかと思います。理系の人のようですが、バイクや飛行機の描写などがとてもきめ細かく、その手触りを感じるように描いています。セカイ系っていうと、形而上というか、こう、ふわふわした印象を持っているんですが、この作品って世界設定の割にかなり地に足の着いた*1実在感のある感じがするんですよね。バイクで少女を運ぶ辺りとかもそうなんですが、実際にそのことをやるときのプロセスがある。
行動に関してもこのように描かれているのですが、人間関係においてもそうです。だからこそ、その密度を保つためにある程度人を制限している、というか、このほとんど人がいないという世界とあっているという気がします。まあ、勝手な思い込みですけど。


あともう一つ、よかった所は、この作品に出てくる人達がいい人で、この作品がいい話だってことです。仮に純粋な意味で「ボーイ・ミーツ・ガールのためだけのセカイ系」だとするなら、セカイが荒廃していているので、人の心も荒んでいて、主人公とヒロインが危機的状況に晒されるという話にしていてもいい気がします。そちらのほうが、男の子、女の子の話は際立つので。でも、この作品はそういう話ではないです。もちろん、「平和でない町」があることが作中で示唆されていますし、人の在り方も変わらざるを得ない。でも、作中出てくる人達との交流を見て、良い読後感で読み終えることができてやっぱりいいなあと思うわけです。


ということで、いい話だと思います。割と幅広い人にお勧めできるような気がしますという感じで。

*1:こう言い切ってしまうのもアレですが