水月

水月をプレイ中。雪さんからやろうかな、とか思いつつ、ふらふらしてたらバッドエンドへ。
以下、その辺りのネタバレ。


記憶喪失とアイデンティティを巡る話がすごく楽しいです。


記憶がないことにより、自分=瀬能透矢であるという根拠付けが、自分が瀬能透矢であるということを支える過去の知識がないため、できなくなっています。
そして、瀬能透矢はどういう要素を持った人であるという知識は、記憶喪失後の透矢(以下透矢で)ではなく、周りの人が持っています。


花梨の

「…違うよ! 透矢は、そんなふうに逃げたりする人じゃなかった。弓道だってすごく真剣に取り組んでいて、途中で投げたりしなかったんだから」

っていう台詞が印象的だったんですけど、これに対して透矢は反論できないのですよね。記憶を失う前の瀬能透矢(以下「透矢」で)に関する知識がないのでこれを否定できません。
瀬能透矢の肉体であってそう呼ばれる存在であるにもかかわらず、「透矢」ではない、そんなふうな透矢はどうなるかっていうと、何者でもなくなってしまうんですよね。
「透矢」とか透矢とかややこしい書き方してますけど、「透矢」でないと言われてしまうということは、瀬能透矢(記憶のあるなしにかかわらず)でないと言われることとかなり近い意味を持ちます。*1そうなると透矢=意識=僕は、瀬能透矢としてのアイデンティティを失います。そして瀬能透矢でなくなるということはつまり、「透矢」が築き上げた人間関係なども失うということです。そこまで来ると記憶喪失になってから「透矢」として生きてきて、だけど「透矢」でない僕には何もなくなってしまいます。


そんなこと考えつつ、バッドエンドの
「僕は、瀬能透矢に、なれない。」
とか見てると面白いです。
あとは、アリスとマリアに記憶喪失後に出会うのは、透矢としてのアイデンティティを確立する(っていうと大げさですけど)っていう部分もあるのかな、とか。

*1:言われるだけじゃなくて、周りの言動から分かる「透矢」と透矢が違うと思うことも同じことです