おたく☆まっしぐら

このゲームのレイヤーって二つあって、一つは個別シナリオの水準としての漢についてと、全体を通してのSF的な世界観です。


SF的世界観の話はのりさんのところが分かりやすいのでリンクしますが、世界観の侵食と攻防という話。AURAとか、うみねことかの後だとイメージしやすいんじゃないかと*1思います。
個別シナリオでもいろんなところに現われているんですが、アキバにおける地形効果、具体的には明が誰かの気配を感じることができることや、一夜のふたなりとか、あとポリスや瑛シナリオのUFOなど、ありえないことやものがそうと認知されずに存在しています。そして、それらは疑問に思われなかったり、場合によっては現実側の解釈しやすい形に落ち着いたりする。瑛シナリオのUFOが後からおもちゃとして販売されるというエピソードがありましたが、UFOがおもちゃだったからということではなくて、世界観の侵食によって事後的にそうなったということです。
ありえないことが存在すると書きましたけど、ねぴあや豚貯金箱なんていう明らかにありえないことだけではなく、涼香シナリオで銃からの弾道がイメージできるなど、「このゲームの世界観」なしとしても受け取れる*2描写の幾つかにも、この世界観が現われていると思います。かなり繊細な描き方なのですよね。


そして、この世界観と同時に各シナリオで描かれるのが「漢」についてです。なにか、役に立たないものを極めるものとしてのおたく。
美月については後で、瑛についてはどっちかというと世界観よりなので違うのですが、基本的にヒロインは何かについての漢です。かなり業の深い人達だと言っていい。ですが、何かを極めるのに対し、行き詰まり感を感じています。
そんな彼女達に対して、主人公である明は全ジャンルに対する濃い漢であり、そのヒロイン以上の人物として描かれます。操や涼香シナリオなんかだと明自身がそのジャンルのおたくとして彼女らと同等レベルまで行きますし、麗南、朝美、綺羅シナリオだとおたくとしてある種行き詰っている彼女達の問題を打開する存在として動きます。
つまり、このゲームは明というキャラクターの強さによって支えられています。


「告白するとだな」
「……俺だって、そんなに強くはないぞ?」
「迷うし、怖くなったりすること、あるぞ?」

「けどどれだけ鍛えても、弱かった自分は消えないからな。そこは別問題だろうが───」

そして、その明についての弱みを描いたのが美月シナリオです。各シナリオで強さを見せてきた明ですけど、彼にも弱い頃があって、という話。「世間に合わせないから漢だ」とか、自分で自分を支えられるだけの強さを示してきた明の、例外を描いたシナリオであり、メインヒロインとしての特異性が現れているとも言えます。おたくであるということを一番にしない、それを捨てても選ぶというところまで含めて。


ゲームとして未完成なこのゲームですけど、こういう感じで全体構造を見てみると、ほんとに良くできてると思うんですよね。LAST EVENTの終わり方なんかもそうですけど、このノリとか、いろいろとすごく楽しいですし。
麗南シナリオで商業としてやることと何かを突き詰めるおたくを上手く両立させるなんてことを描いていたことからすれば、駄目じゃんとか思うのですけれど。やっぱり惜しいなあと。

*1:もちろんおたぐらが2006年発売なんですけど

*2:単なる思い込み