暗闇にヤギを探して 穂史賀雅也
- 作者: 穂史賀雅也,シコルスキー
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2006/09
- メディア: 文庫
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一人称の作品って、主人公によって作品世界の色が作られると思っているんですが、合人くんによって語られるこの物語の感覚はすごく好きです。
作中、「移行」って話がありましたが、読んでいて彼の人の良さが伝わってきます。
例えば、最初「ヤギ」に対して合人くんは「とても誠実で正直な性格のように思えた」というのですが、この時点で彼は「ヤギ」についてほとんど何も知らないわけで、こう思うのは彼の内面を表していると思います。
また、彼の人の優しさへの信頼と、誠実で正直な性格というのも非常にいいです。
人に優しいというとなんとなく八方美人的というか無条件のものを想像したりするのですが、合人くんはそれとはまた違って、自分の感じたものに正直で、その正直さをもって誠実に行動します。自分がいいと思ったことをいいとちゃんと表明したり、そのままに感じたりすることによる優しさというのは感じがよく、他人を悪く思ってしまう場合であっても、ここは悪いと思ったり言ったりすることに変なバイアスをかけず、素直に受け止めているのもいいと思います。悪いと思った場合であっても無理やり肯定してしまうというとフルバの夾くんの母親を思い出すんですが、ああいうふうに歪んでないので。
あとは、p242の階段のエピソードなんかがファンタジーと地続きのような印象があって気に入ってます。こういうのが普通に混じってる不安定な世界観(どっちかというと作品の世界観というより登場人物による世界認識)というのは、この作品によく合っていると思います。