春期限定いちごタルト事件 米澤穂信

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件に書かれている範囲での、夏期限定トロピカルパフェ事件の感想。
ということで、夏期の方であったこと自体は直接は言ってませんけど夏期に関してもネタばれっぽいので(春期に関しては思い切り)、できたら両方読んでからにしてください。


夏期を読んだ後に春期の方を読み返してたんですが、夏期の最後みたいな展開になるのは春期の方だけでもわかるなと思いました。
小鳩君に対しては、「小賢しい」という形容が自分自身によってかなり使われているのですが、これってかなり彼の性質を現していると思います。
彼は謎解きを楽しみ、そしてそれをする能力を持っているため、知能が高いことは確実なのですが、対人関係に関してはそれほど得意ではありません。例えば、プロローグにおける謎解きはできるけれど、周りにはうっとおしがられるという描写や、春期において、「羊のきぐるみ」における「ラブレター」、「狐狼の心」の健吾の考えが、彼の思い通りにならなかったことなどがあります。どちらもロジックではなく、感性、感情的なものです。
ここで彼にとって、推理とは何か?を考えたいと思うのですが、それは現実が自分の思い通りであること*1を指摘することだと思います。「狐狼の心」において健吾を説得する時の言動はこの性質が非常に強くて、「ここで真実を語るのは、算盤勘定に他ならない」と言っているのですが、これは要するに、こうすればこの人はこう動くだろうっていう考え方です。自分の中で確信を持って言っているので、自分が頼みごとをしているという真摯さが足りないし、なにより、相手が自分の思ったとおりにならないということを可能性として考えていません。
でも、他人がいつも自分の思うとおりに動くと考えるのは、明らかに傲慢ですよね。


加えて米澤穂信さんは、夏期の解説によると、*2、「ビルドゥックスロマンを目指す」という発言をしていて、この小市民シリーズ以外の作品で探偵の挫折を描いています。成長っていうのは変わる事なので、彼の中二病マインド(素直に言うと価値観)がそのままではいかずに、挫折、もしくは失敗して、変わるか、少なくとも揺らがされる必要があります。


こういった彼の対人関係における鈍さ、というより自らの能力の過信と、ビルドゥックスロマンという方向性から考えると、夏期のラストにはなるべくしてなったという感じではないかなと思ったのでした。

*1:とか言うと、ハルヒみたいですよね。

*2:夏期は使わないって言いましたけど、ここだけ例外で