005 春季限定いちごタルト事件 米澤穂信(ISBN:4488451012)

小鳩くんと小山内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが、互助関係にもある高校一年生
今日も二人で手に手をとって清く慎ましく小市民を目指す
それなのに二人の前には頻繁に奇妙な謎が訪れる           (本文より)

ネタバレっぽいのありで


この小説で小鳩くんは、探偵とか、小市民とかそういったものよりは子供というのが一番近いんじゃないかと思う
確かに探偵役が好きだったり、小市民になりたいと言ったりはしてるものの、多分それが主ではないんじゃないだろうか
彼の場合は、事件を解くことそのものよりも事件の謎について考えることが好きで、それが上手くいくうちに自慢になってきたんだけど、過去の出来事により思い切り打ち砕かれたって感じだと思う
小市民のほうに関しても、それほど強いストッパーにはなってない
せいぜい意識的にそういうのは良くないと思い込もうとしてるくらい


小鳩くんは、もともと他人のことをあんまり信じていなかったし、過去のことによって自分のことも信じられないと思うようになったので、とりあえず行動の指針として小市民というものをおいたくらいだと思う
小市民になりたいと言う考え方は、意識的にそうしたほうがいいと思い導入しているものだから、自分の無意識、本当にしたいことをあまり抑えることができない


小鳩くんが子供だと言ったのは、プロローグで昔は他人のことを考えず、好き勝手やってたんだろうなというのも、もちろんあるんだけど、狐狼の心における小鳩くんと健吾の立ち位置の違いを見ててそう思った
健吾は小鳩くんの話をしっかり聞き、自分が納得できるかどうか確認した上で相手のことを冷静に考えている、つまり大人の態度
一方で、小鳩くんは自分の都合でしかもある程度の余力を持って健吾を動かそうとしている
端的に言えば、わがままと言ってもいいような態度であるから、子供と言ってもかまわない


とか考えていくと、多分小市民というのは小鳩くんにとって、逃避なんだと思う
自分であることが招く辛さ、そのことに気づいてしまった彼の逃避


だから、この物語で彼は謎を積極的に解くようになっていくのだ
逃避をやめ、甘えをなくし、覚悟を決める
それができたのは彼の成長だろう